トビ と ボク 

 春のある日 友達と車を走らせていたら 細い山道の先に ある物体を発見! 木の枝でもなければ 猫の死骸でもありません。なにか道路では今まで見たことのない なにかです。車で近づいてみたら それは やはり初めて見る光景でした。トビがアスファルトの道路に 舞い降りていたのです。あだたら高原には トビがたくさんいますが 空を悠然と飛んで 地上の獲物を虎視眈々と探している勇姿しか見たことはありませんでしたので あのシーンはちょっとした驚きでした。そして その時 頭をよぎった思いは 「つかまえたい」  「つかまえられるかもしれない」という二つの発想でした。即 20m手前で止めた車を降り そおっと近づいていき なんと3mくらいまで接近してしまいました。こんなに近くまで 野生動物に 「近づいていいんだろうか」 「近づけるものなのか」という戸惑いと嬉しさで 頭は混乱していました。 その時 トビはなにくわぬ顔で飛んで行ってしまいました。「ああ やはり山の中に消えてしまうんだなあ」と セミを取り逃がした時のような 当然の帰結を思い描き 空虚感のなかにもある意味 納得していました。

 しかし ノンフィクション物語は ここから始まります。 そのトビが またアスファルトの山道に 低い空から すーと降りてきたのです。そしてボクもあたりまえのように また そおっと近づいていき さっきよりももっと接近していました。もう手を伸ばせば届く距離に 野生のトビがいます。でも近くで見ると くちばしは鋭く尖っているし 両足の爪も とっても怖そうだし強そうで そしてあの鋭い眼光を見たらもう手出しできない状態。捕まえたりしたら あの嘴で攻撃されて目でも突かれそうで 腕をやられても骨まで到達するだろうと思いました。(この思いは 小さい頃 むく鳥の巣から雛を獲ってきて足に凧糸をつけて飛ばして遊ぶという いま考えれば非常に残酷なことをしていた その時 親鳥がキーキー叫びながらボクの頭をめがけて嘴から突撃してきたのです。むこうの木に止まっては また何度も攻撃してきました。あの親心の凄さは 人間も鳥も全く同じです。それは子供心に驚きでした。その雛は巣に戻しましたが それからも毎日巣をのぞいては雛の成長を見ていて 親鳥にしてみれば なんとも邪魔な存在であったと思われます。 子供は冷酷でカエルのお尻の穴に2B弾を刺して空中で爆発させるというようなことも上級生たちはやってました。ゴメンナサイ。) こんな頭も心も痛い(いま思えば)体験から あのトビの嘴と爪と鋭い眼光を見て もう目の前にいるのに 捕まえようなどという気にはなれませんでした。身体はあとずさりしながら右手だけを伸ばして「きっと逃げるはず」「飛び立ってください」という反面 ボクの右手は 恐る恐るトビの大きな羽に近づいていき その先っぽに なんと触れてしまったのです。

 これにはボクが一番驚きました。トビは驚いた様子もなく悠然と飛び立っていき 今度はさっきより高くは飛ばず 低い位置からすーっとまた道路に降りてきました。ボクはすいよせられるように また近づいていき 今度は 羽の先っぽにせよトビに触れたことによる親近感からか いままでとは 全く違う思いでトビ君と対面していたのですから不思議です。なにか トビ君と友達になったような そして何の違和感もなく 野生のトビ君をこの両手でつかむことができたのです。そしてその時 トビ君を胸に引き寄せたら なんとトビ君はボクの胸に寄り添ってきたのです。恋人のように?・・・ いま思い返しても あの小さい頭を首から寄せてくるあの反応は以外でした。あんなに 愛らしい仕草が野生の動物にあるとは。でも それは 助けて というサインだったのかもしれません。でも人間に助けを求める野生の動物など聞いたことがありません。 車にトビ君を抱いて一緒に乗って とても不思議な感覚でした。そして まもなくトビ君が元気がないことに気づいたのです。あ具合が悪いんだあ えっ どうすればいいんだ!人間の病院じゃ解かんないだろうし 獣医さんに駆け込んだら「トビはやった事ないね〜ウチは イヌネコだから」と無下に断られるし 車の助手席で大きなトビを抱きかかえながら 「トビの病気を治すにはどこに連れてけばいいんだ!」と生まれてはじめて考える疑問をかかえ 路頭に迷ってしまいました。119番で教えてくれるんだろうか?タウンページか? 誰に聞けばいいんだ!! その時 安達太良山県民の森の 溝口先生が頭に浮かびました。あの先生なら治してくれる。あとは友達と一心に県民の森に向かっていました。やはり あそこは野生動物がいろいろいて治療してくれていました。良かったあ。早速 トビを手渡して診てもらうことにしました。入院です。

 そして 二日後に行ったら「治ったんで 山に放してやった」「元気に自分で飛んでいったんですか!」「ああ」  「良かった」という思いと「もう一度会いたかった」 もう生涯二度と会えない ということがわかってましたから・・・ そんな思いが錯綜して 嬉しい 哀しい ほろ苦い トビ君との 突然の 出会いと 別れでした。でも 猛禽類の野生の鳥を素手でつかんだことのある人間は 世界で何人いるだろう。アフリカの弓矢や吹き矢を使って狩猟している人たちも 素手で捕まえた人はそういないだろう。今 大空を悠々と飛んでるうちの誰かがあのトビ君なのかなあ。 別れも突然だったので やるせない淡い憧憬の念が未だ心に残っています。しかし 野生の猛禽類の悠然とした仕草 人間の感情とは全く違う感性 でもほんのちょっとだけわかり合える思い クールなまでのかっこ良さ そして あの恐ろしい外観からは想像もできない愛らしさ トビ君と出会えて ほんのちょっと ハートが触れ合えたような気がして ほんと幸せでした。

あれから季節が変わり 夏の終わり頃 中庭に一筋のトビの羽根が落ちていました。
まだ落ちて間もない新鮮さが伝わってきました。
大空から舞い降りてきた この羽根は今 ボクの部屋に置いてあります。

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